つい先日の出来事だ。犬の散歩の道すがら、休憩を兼ねてふらっとそこそこ馴染みのカフェに久々に立ち寄った。
そのカフェはローカルハワイをコンセプトにしていてわりと居心地もよく、夜はバーとしてまったり営業している。
敷居の高そうなコンセプトのわりに、マスターの人柄と気軽に立ち寄れる雰囲気のせいか、このクソ田舎では異例のヒットを記録している。
店に入ると年がら年中焦げているマスターが助けを求めるかのように私と犬にまとわりついてきた。この店はドッグカフェではないのだが、我が家の犬は特別枠のようでいつ行ってもテラスの指定席が用意してくれてあるのだ。
マスターがまとわりついてきた理由とは、マスター目当ての暇を持て余している「マイルドヤンキー奥様形態からの脱出」である。
なにかのクソゲーのようだ。
サーフィンをこよなく愛する30代前半のマスターはそこそこマッチョで正統派ワイルド系韓流スターのような端正で均整のとれた容姿をしている。まあ私の辛め採点で安く見積もってもいい男の部類に入ると思う。しかしありがちな感じではなく、話すと慣れた所もがっついた所も斜に構えた所もなく素朴で素直な好青年なのだ。
マイルドヤンキーはマイルドヤンキーとしか出会えないので、そんなマスターが新鮮で可愛すぎるのだろう。あからさまな萌えキュン状態なのだ。見ているこっちが恥ずかしくなる。
マスターはいつも通り爽やかな笑顔をキープしながら何かを訴えるような目で「元気だった?いつものでいい?犬にミルクは?腹減ってない?」などと有無を言わせない取り調べのような迫力で私に詰め寄り、私はその圧で倒れそうになりながらも事態を察知して、マスターに手間のかかりそうなパンケーキとスタバのカスタマイズ並の複雑な裏メニューと軽めアルコールのカクテルを注文した。
マスターは爽やかに軽やかに厨房へ消え、まんまとマスターの脱出劇に利用された私は一応顔見知りであるマイルドヤンキーの奥様方と(イヤイヤ)絡むことになったのだ。
旦那や子供の話など私が全く興味ない話題で話は進んでいき、唐突に家族全員のケータイ代の話題になった。
キャリアは田舎のマイルドヤンキーご用達のドコモが圧倒的な支持を集めており、スマホはみなさん揃えたようにiPhoneだった。ドコモの◯◯割だの◯△ホーダイだの私には全く関係のない話題だ。つまらない。早く帰りたいな。などと考えていたら、「ところであんたケータイの会社どこ?」などと話を振られてしまった。
私「え?◯◯(MVNO)だけど」
マ「何それ?」
まずここからである。
マ「安いの?」
私「そーだねえ、月3G契約で2000円行くか行かないかかな?」
マ「私知ってる!でもあれって速度遅いんだよねードコモの人言ってた!」
私「………」
私はほぼ車移動なので、基本的には移動中にスマホは触らない。回線が混む時間帯に大容量の通信も行わないしそれほどストレスは感じないのだ。Wi-Fiも普及してるしね。
マ「えー速度遅かったらあかんやん!」
私「そこまでストレスにはならないよ?」
マ「無理無理無理」
マ「いくら安くてもねー遅いのはナイわ」
なぜだろう。かなりイラっとした。
こいつらの通信はせいぜいラインが5割、メルカリ3割、ネットショッピング(楽天)2割くらいなのだ。
お前ら速度いる?
私は大人なのでバカなマイルドヤンキーたちに熱弁を振るうこともなく、ただただ机の下で拳を固く握り締めていた。
マ「やっぱり速さはドコモやろー」
マ「◯◯とかなんかカッコ悪くない?」
私「そう?別に言わなきゃいいんじゃないの?」
マ「えー下のやつ(たぶんドメイン)変わるからバレるバレる」
私「てかキャリアメールはスマホにした辺りから使ってないし、Gmailのほうが便利だから」
マ「Gmail?」
死ねば?
そうして私は偶然立ち寄ったカフェにてケータイキャリアごときに要らぬストレスを与えられ、改めてマイルドヤンキーの「何だかよく分からないブランド志向」に嫌気がさした。
マイルドヤンキーだからアルファード。
マイルドヤンキーだから子供もオリジナル性強すぎてキラキラを通り越したギラギラネーム。
マイルドヤンキーなのでドコモのiPhoneとドコモのiPad。もはやappleのiPhoneではない。
てか揃いも揃ってどんだけヴィトン好きなんだよ。私はお前らみたいなやつらのせいで持てなくなったよ。だいぶ前からな。
「お待たせー」マスターが爽やかに美味しそうなパンケーキを私の前に置いた。
マ「マスターってケータイどこなーん?」
「あーマイネオっすね。」