るいブロ

つつがない毎日の落とし穴

ピアノ協奏曲「蠍火」合同練習初日

先ほど合同練習から帰ってきた。午前1時過ぎかな。今日は例のクラシックバカたちの酔狂に付き合ってきたのだ。


正確には一旦家に帰り、犬たちの散歩もかねて例のローカルハワイ風カフェで一杯引っ掛けてから帰ってきたのだ。


練習は6時過ぎから始まり9時ごろには終わったのだが、とにかくハードな練習で頭と手がおかしくなりそうだったわ。


家へ着くと無性にピザとビールの組み合わせが恋しくなり、とりあえず犬たちを連れてカフェへ向かった。土曜日ということもありカフェはそこそこ賑わっていた。そこは空気を読んでほんとに一杯だけのつもりだったのだが、チラ見した厨房の洗い物の山を見たらちょっとかわいそうになり洗い物だけ手伝ってやった。10時を過ぎる頃には徐々に客も引き始め、私は改めて席に着きキンキンに冷えたビールを流し込みながら、マスターに例の練習で一緒だった頭がおかしい人たちの愚痴をこぼしていた。


課題であったピアノ協奏曲「蠍火」の採譜も完璧ではないものの、なんとか締切前にやり切り私的には後はオケと合わせながら手直しするという段階のはずだった。


しかしそう甘くはなかった


各パート一応形にはなる程度の採譜はしてきたようなのだが実際音合わせをすると、まあびっくりするほど私のピアノと合わないのだ。最初に指揮者から各パートにざっくりとした指示が飛び、パート別に軽く演奏をさせていた。さらっと聴いた感じでは各パートの技術的な問題でもなさそうだ。しかし全員で合わせてみるとやはりまとまりがない。

原因はまさかみんなをまとめ上げるコイツなのか?私かも知れないがw

指揮者はたぶん認知症予備軍だ。こいつは会話の際おっさん共通語である「アレ」を多用する。「ここアレして。えーとフェルマータ。んで◯小節目はアレにしよう。ほらアレ。えー3連符から6連符にアレンジして」という具合だ。


合わない理由がなんとなく分かった。こいつはまだ2回目であるこの合同練習(蠍火は初回)で仕上げようとしているのだ。各パートにはざっくりとした指示しかしてないくせに自分の頭の中ではちゃんと仕上がってるのだ。それを伝えられないやっかいな人だった。


そして地獄の練習が始まった。ピアノ協奏曲というのはピアノが主役みたいなもんなので、たぶんピアノ協奏曲の合同練習では1番休めないハードなパートなのだ。ソロ部分は気楽なんだけれどね。わりと自由だから。


「じゃあ◯小節目のピアノからもう一回」

今日は何回この言葉を聞いただろう。

「◯小節目はもうちょっと抑えて。◯小節目の◯はもうちょっと強めでいこうか」

こんな具合で私を弾きホーダイ使いホーダイの機械ように扱う。練習でなんとかなるちょっとしたミスタッチや音飛ばしも指摘される。


おいおい。蠍火の合同練習はまだ初日やんけ。

お前が聴いた参考音源は打ち込みなんでしょ?そりゃどんな発狂ゾーンだって正確だわ。


このバカ指揮者はこの曲の1番の聞きどころである後半部分をとりあえず納得するところまで持っていきたいらしく、蠍火最強の発狂ゾーンを繰り返し弾かされた。


そして私が1番怖れている指示が飛んできた。


「もうちょっとテンポ抑えようか


キターーーー。

無理無理無理。

すみません。私それ出来ないんです。


ちょっとピアノをかじった方なら分かってもらえると思うのだが(だからあえて用語を使う)早いテンポでのフォルテ、フォルテシモ、スケールの連続、広い範囲のアルペジオ、すべて16分音符。そこに指揮者からの指示は6連符ときた。

走っちゃいますよね?

鍵盤を確実に叩くためにチカラ入りますよね?

ぶっちゃけ早いほうがラクですよね?


てか16分音符6連符4音って木枯らしのエチュードを思い出すなあ。木枯らしのエチュードとはショパンが作曲した比較的早いテンポの3分ほどの曲で一小節の間に鍵盤を24個叩かねばならない練習曲なのだ。その24個叩く小節が最初から最後まで続いている。頭も手もおかしくなりそうな一種のマゾが好む曲である。練習曲と呼ぶにはいささか難易度が高すぎる曲なのだ。

自慢じゃないが私はその曲を適当な指使いでほぼ完璧に弾けるのだ。ピアノの楽譜では複雑な指使いの時、音符に1から5までの番号がふってあり(右手1番が親指)その曲でもっとも効率的で弾きやすい指の指定がされている。私はその指定をことごとく無視して仕上げてしまうのだ。適当な指使いとはそういうことである。


なんというか私はどんな曲でも発狂ゾーンは早弾きのほうがラクなのだ。まあぶっちゃけていうとごまかし効くしw


それをもうちょっとテンポ下げろと?


粗が目立つじゃないか。

叩けてない音がバレるではないか。


このバカ指揮者め。バカのくせに耳はいいのだな。耳鼻科医師なのか?


とりあえず指示通りにする。それはもう自分でも嫌になるくらいメチャクチャな演奏になったw 


とまあそんな感じの練習を2時間ほどしてきた。自宅での練習では指先が痛くなることはなかったのだが、今回の合同練習では指先を痛め(特に左親指)絆創膏を二重にして弾いていた。


そんな指の私にこのバカ指揮者は容赦なく「じゃあ◯小節目。ピアノのスケールから」

「◯小節目左手もっと粒揃えてもっと強くね」

などと指示を出してくる。


さすがにコンマスと呼ばれるリーダーみたいな人が「プロのピアニストじゃないんだからそこまで要求したらかわいそうですよ。指も痛めてるし、体力的に限界きてもおかしくないくらい弾いてらっしゃるから」

とちょっと嫌な感じに助けてくれた。こいつらってやっぱなんかちょっとおかしいわ。慇懃無礼という言葉がぴったりの言い回しを平気でする。


それからは私はオケから外れ電子ピアノへ移動しヘッドホンをして地味に練習していた。



一応バイトなので適当な演奏は出来ない。

次のオファーもくるような爪痕は残しておきたい。


冷静に考えてみる。

自分で採譜やアレンジをしたからには弾けないはずはないのだ。人間が演奏できる範囲のアレンジに仕上げてきたのだが、バカ指揮者は打ち込みの原曲しか聞いてないのだろう。生で弾いてる人少ないからね。

コイツは人間が弾ける限界というのを分かってない。指は10本で頑張って指を広げても12、3度が精一杯なのだ。その「限界に挑戦!」みたいな曲で私が1番苦手とする「テンポ抑えめでアルペジオとスケールを確実に」だあ?

初日から無茶言うな!苦手なとこ突いてくるなよ!


もうね、終始イラッとしっぱなしだったわ。


で帰宅と同時に体がピザとビールを欲し、犬たちを引きずってカフェにやってきたのだ。

サーフィンバカなマスターは、もうすでにいやらしいくらい日焼けして、なんかAV男優みたいになっていた。その焦げたAV男優に愚痴をこぼしていたらすっかりこの時間になったのだ。犬たちは当然寝ていて動こうとしなかったのでマスターと私で1匹ずつ抱いて帰ってきた。犬たちを寝かしつけてリビングに戻ったきたらマスターがビールを飲んでいた。

「一本もらった」

「ちょw帰れよw風呂入るし」

マスターは結局500ミリのビールを2本飲んで鼻歌を歌いながら帰っていった。


あー疲れた。

とにかくいろいろ疲れた。

ピアノコンチェルト蠍火なんて余計なこと言わなきゃよかった。



あ、バイトといえばバイト代ってどこからいくら出るんだろ。

この気が狂いそうな合同練習の拘束時間もバイト代いただけるのかしら。

なんかすごく不安になってきたわ。



月曜日人事のおっさんに問い詰めよう。