大阪にはうさん臭い街が何ヶ所かある。
- 十三(じゅうそう)
- 京橋(きょうばし)ええとこだっせ。
- 大正(たいしょう)
まあまあうさん臭くてヤバいトコもある。
- 八尾(やお)
- 東大阪(ひがしおおさか)
ご存知、相当うさん臭い街もある。
などなど。
(まあイメージ通りの一例です。)
それぞれの街には特色というか、切っても切れぬイメージがつきまとう。
色
恋
欲
金
犯罪
ボクシング
在日
ホームレス
(どの街が当てはまるのかは想像してね)
まあなんというか、私は昔からその辺を普通にブラブラしていたので、特別な感情もクソも抱くことはなかった。
記憶は定かではないが、【大阪球場】のスケートリンクがあった頃、母親と高島屋→大丸→そごうをブラブラしてから、飛田界隈の親戚の家によく遊びに行ったものだ。
動物園前だからなのか、あの辺は獣臭がプンプンしていた記憶がある。ホームレスたちのトイレ代わりのガード下とか、とにかく臭せえ街だったなあ。記憶は曖昧なのだが、ペットショップなのか?猿をゲージに入れて飼ってるのか売ってるのかよく分からない店もあったりしてね。それもまた臭せーんだ。
んで、親戚ん家に行くとけっこうなご馳走が食えた。飛田料理組合だけあって、旅館の晩メシみたいな豪華な食事が出てきてたなあ。親戚はそーゆー商売じゃなくて、料理は出前ね。
思い出話はこれくらいにして、先日の話。
友人であるクズ医師と久しぶりに京橋で待ち合わせをしてブラブラしてきた。特に京橋に行きたかったわけでもないが、私たちはうさん臭いところが何故か好きなのだ。
まあ、開発が進んでもいかがわしい雰囲気は健在だ。今風の若者や縒れてくたびれたリーマン、ちょっと汚いOLなんかが混在する異世界だ。キレイな駅ビルなんかには興味がないので、私たちはさっそくほんのりアンモニア臭と焼肉だか焼き鳥の匂いのする路地へ歩いて行った。新しい店もチラホラあるが、昔からの店がいい感じに劣化しながら現役で営業している。
そこに突如としてイタリアンとか。
「逆に」とかいらんから。
京橋はそんな街ではない。
なにかが狂っていた昭和という時代がまだそこにはある。
よく探せばまだ【トルコ】という文字や【テレクラ】という文字に出会えるし、場末感漂うスナックにはガリガリでガラガラ声の「お前、絶対後期高齢者だろ」ってママもけっこういる。
何軒かのスナックに顔を出してから、ふと「あれ?こっち行ったらどこ行くんだろ?」
昔隅々まで歩いたはずなのに、記憶が抜け落ちているのか、迷い込んだ感覚に陥ってしまった。
クズでクソな主治医は、
◯◯があそこに見えてるから△△へ出るだろ。この辺はけっこう変わってるみたいやな。俺も初めての感覚やわ。
コイツを信用したわけではないが、なんだかワクワクしてその路地に足を踏み入れた。
ポツポツと看板があるのだが、ゴミのバケツとか乱雑に置いてあり、ホントの裏通りみたいだ。人通りも少ない。
わりと新しめの小料理屋があったのだが、私たちのビビっとくる店ではない。
きっと店内にはミシュランを密かに狙っている「いかにもな板前と和装の女将」がいるはずだ。
そしてさらに見覚えのない路地を見つけずんずん進んでいく。京橋はこれが楽しい。私道かよと思うくらい、プランターや植木鉢が乱雑に置かれている。誰のだ?
手書きメニューが乱暴に貼ってある洋食屋発見。
店名もいい感じ。
ランプ切れてるじゃんかよ。
植木枯れてる!
もはや入店しない理由はない。私たちはさっそく入店した。
ヤル気のなさげなマスター。1人か?
メニューは壁に設置してあるボードに書かれたものと、それにつぎたした手書きの短冊みたいなやつのみ。
老眼にはキツいんじゃね?
私たちの選択は間違ってなかった。
もはやあまり見かけなくなった、磨りガラスみたいな安っぽいプラスチック製のコップに入れられた水とこの時期にはちょっと乱暴な黄色い常温のおしぼり。
私たちは初めて入る洋食屋では、ハンバーグ・エビフライ・クリームコロッケを必ず頼む。
デミグラス・タルタル・ベシャメル。洋食屋の命とも言えるこのソースを味わうためだ。別にグルメを気取ってるわけじゃない。フレンチなどの複雑なソースより、バカ舌にも美味い・不味いが分かりやすいソースだと思うのだ。
マスターは急ぐ様子もなく、料理提供のタイミングなどまったく無視して、調理を始める。
その間私たちは、店内を吟味する。
1990年代のジャンプとチャンピオンがある。文春・新潮もいつのだ?えらく色あせした【シェイプアップ乱】や【ターちゃん】の単行本がある。懐かしくて涙が出そうだ。
うーん。この店はアタリだ。
誰にも教えてやるもんか。
さて、テーブルの上。
なんだ、この醤油差しとソース入れ。蓋が木目の懐かしいフォルムのやつ。手書きでソース・醬油と書かれた紙が乱暴にテープで貼られている。塩・コショー。米粒入ってんじゃん。しかも米粒入ってんのに、湿気で固まってる!
ヤバい。ツボです。これはヤバい。料理の出来栄えなんてもはやどうでもよくなってきた。
料理は予想を裏切るちゃんとしたものだった。タルタルはねっとりしたものではなく、わりとサラッとしたやつ。ベシャメルソースは子供が好きな感じのもので、ソースご飯によく合う逸品だった。普段白メシを食わない主治医がライス大盛りをお代わりしていた。塩ライスとソースライスで食っていた。下品なクズ野郎だ。
私もタルタルご飯とかソースキャベツご飯とか、下品な食い方をしてしまった。それほど魅力的な店だったのだ。
さて、腹いっぱいになったし、どこかで飲み直そうと店を出る。メシ代は5000円弱。安いものだ。また来よう。
満腹だし、少し酒も入ってとてもいい気分だ。なんか夢のようである。
【千と千尋の神隠し】みたいにならないように、グーグルマップで位置確認。よし。夢ではない。
しかし、支払いのときに夢であってほしいと思える現実を見てしまっていた。
ハインツデミグラスソース業務用。
私たちはバカ舌である。