お前の田舎ってどこよ?
鹿児島2日目、墓参りが済んでから元パートナーの実家への石畳の坂を登りながらそう尋ねた。Aは勘がいいのであくまでもさりげなく。
「〇〇だけど?」
「ふーん、全然イメージ湧かんなぁ。」
ここでGoogleマップ登場。
「田んぼと山ばっかじゃねぇか」
「あーコレ俺の小学校」
「ふむふむ」
ズームアップ。
「俺の実家ちゃんとあるw」
更にズームアップ。
「るいはじゅうしょをてにいれた!」(♪テレレレッテッテッテー)実は知ってたけど.......。
急な登り坂の途中にある休憩スペースのベンチに腰掛けながらさらに追加調査をいくつか。あくまでもさりげなくね。
息切れしながら元パートナーの実家へ到着。やっぱりシャッターは下ろされ雨戸も閉じられ誰も住んでいる気配がない。
.......Aが黙った。話しかけても上の空。コイツがこういう時はらしくない何かを感じている時である。平成生まれのコイツがノスタルジーや感銘を受けるような景色でもなさそうだが。
A、本当にありがたい話だけど結婚の話はとりあえず保留だな。
「だよね。そう言うと思ってた。ねぇ〇〇さん(元パートナー)とか結構な年寄りが通学とかで毎日この坂を上り下りしてたんだろ?なんかいいねそういうの。俺たちが感じる不便が当たり前って。」
普段はコミュ障でたまに口をひらくと、
「なんてこと言うのこの子は!(゜д゜)」
こんな奴なのだが。
さて本題。
鹿児島から帰ってきた翌日、私は仕事を休み新大阪駅にいた。もちろん仮病だ。
新幹線とJRとタクシーを乗り継いでノコノコとやって来たところはAの実家である。
「こんにちは」
「遠いところをよく来てくれました。さぁ上がってください」
Aのご両親が出迎えてくれる。昨日私の急な電話と今日の来訪のお願いを快く受けてくれた。
「失礼します(やっぱり正座だな)」
今日は私からのお願いを聞いていただきたくてお邪魔しました。
土下座。
お願いします。どうかY(Aの名前)くんと結婚させてください。頭がどうかしているのは分かっています。私は50歳で子供を産める体ではありません。若いYくんと釣り合わないのも重々承知しています。それでも私はYくんと共に人生を過ごしていきたいのです。どうかお願いします。Yくんとの結婚を認めてください。
泣いていた。
長い沈黙の後お父様が
「Yの幸せなんてYにしか分からんよ。私たちには分からん。Yがええちゅうならええんやないか?母さん。」
「そうやね。あの時私らがYの事よろしく頼むって頭下げてお願いしたんやもんね。」
Aが入職して数ヶ月経ったころの話。
私たちの職場にAのご両親が突然やってきた。クリスマスのイルミネーションが街を華やかに彩る頃だ。公務員を蹴って病院に就職したコミュ障のAを心配しての事だった。
大阪の繁華街で楽しく食事をし宿泊予定のホテルまでご両親を送って行った。
「どうかYをよろしくお願いします。」ご両親は私に頭を下げた。別れ際ギリギリでお母様から封筒を握らされた。手紙だった。それには我が子を想う母親の願いがしたためられていた。それからAの母親と手紙のやり取りが始まった。Aは何も知らない。手紙はもう100通は超えている。
晴れて結婚の準備が整った。
かつて小学生のAは壮絶なイジメを受けていたと聞いた。不登校気味な小学生を過ごし中学時代は勉強しか友達がおらずその結果学習塾にも通わずに割と名の知れた私立の進学校に進学したようだ。
私もそうでしたよ。
AからのしつこいLINEを既読スルー。今日はこのままこっちで宿を探して明日帰ろう。母親と姉にだけLINEする。
「Aと結婚する事になった。今日は帰らない。Aが来ると思うけど今日は1人で居たいから来たらメシ食わせて好きなようにもてなして。」
既読スルーされたw
家族のようなAがズカズカ入ってきても彼女たちには普通の事なんだろう。さて宿探し。
ではお邪魔しました。
Aの母親は涙を流しながら私たちの結婚を喜んでくれた。お父様も私の手を握ってYをお願いしますと何度も頭を下げていた。
Aの言った通りWinWinだった。アイツは超能力者か。
なんで〇〇さん(元パートナー)とは結婚しなかったの?無邪気にAが聞いてくる。
彼がそう望んだから。何故かは分からない。
尼崎に住んでいた頃出会いリストラされた彼に「家くる?」
身一つで転がり込んできた彼との生活は楽しく、年齢のせいで働き口が中々見つからなかったけど私は彼が家に居るだけで幸せだった。
パチンコ屋の掃除の仕事はどう?辛かったら辞めていいよ?
うん大丈夫。
私たちって結婚とかないの?父親が結婚しろしろうるさくてさ。
大丈夫、今のままでいいよ。
ステージ4の癌が見つかり結婚のお願いを申し出たが彼は首を縦に振らなかった。
それはダメだよ。
癌が発覚して1年と数ヶ月後、余命宣告を受けた彼を連れて彼の人生最後の鹿児島帰省を決行した。彼の父親と始めて会い彼の実家で過ごさせてもらった。熊本震災の頃だった。
意外に早く別れはきた。
もうあかんねんて。
もうあかんの?
うんもうあかんねん。
そっか。
私は彼に感謝しかない。
幽霊でも夢でもなんでもいいから必ず会いにこい。
うん分かったよ。
約束したからな。
某チェーンホテルにチェックイン。
AからのLINE。
「え?何?お前のオカンから聞いたけど俺達結婚すんの?」
「あぁ明日帰るからそれから結婚するぞ」
「OK。俺明日腹痛の予定だわ」
「偶然だな私もだ」
明日は仮病を使い市役所行ってメシ食って戦国乙女レジェンドバトルでコタローを1発でシバいてラッシュにぶち込みソウリンのふくれっ面を見る予定なのだ。
ちなみに私の現在の名前はA瑠依と言い、なんか2次元の魔法少女のツンデレクール姉さん枠にいそうな名前となっている。