私のGWは特に予定もなく、家庭持ちであるいつもの騒がしい友人たちは「こどもの日」が絡むGW後半は家族とともに過ごし、ひとり者の同僚Aは田舎から息子の様子を見に出てきた両親と過ごしているという。人ごとながら牧歌でも歌ってあげたくなるほどの穏やかさだ。私はというと、犬たちと無計画にうとうとしたり、なんとなく夏物の準備をしてみたり、思いついたように庭の草むしりをしたりと、これまた穏やかなGWを過ごしている。
そんな中、父がいただき物の「ふき」を持って昼過ぎに行くとの連絡があった。正直、
え…アク抜きと皮むきめんどくせえ…。
なんて思ったのだが、これまたいただき物のタケノコ(アク抜きめんどくせえ)を持て余していたので、ダラダラついでに煮物もダラダラ作ってやろうという気になった。ふきはツナ缶で煮て、タケノコは煮ても焼いてもすぐ食えるように下ごしらえだけして冷凍だ。あ、昼過ぎに来るってことはメシ食ってくだろ。なんか作ってやろう。というわけでダラダラダラダラとお好み焼きの準備をする。
そうこうしているうちに父がやってきた。持ってこなくていいのに、母の手作りパンも持ってきた。よし、今日の晩メシは手抜きに手抜きを重ねたオニオングラタンスープにしよう。それだと結構な量のパンを1人でも消費できるのだ。名前だけはいっちょまえだが、オーブンにブチ込めばなんとかなる「我が家のローコストフード」なのである。ガーリックトーストとオニオングラタンスープ。これでいい。時期的なズレもどうでもいい。どうせ今日は1人メシなのだ。
父が来ると、それまでうとうとしていた犬たちも嬉しそうに父にまとわりついている。犬たちは私の父が大好きなのだ。ひょっとしたら主人の私よりも好きなのかも知れない。そうであったとしても私は嬉しい。
私は父が大好きだ。それこそ
目に入れても痛くないくらい。
だからそんな父を、犬たちも好きでいてくれるのが素直に嬉しいのだ。
私の父は本当に優しくてとても穏やかな人だ。すべての命に愛情と敬意を持って接していると言ってもいいくらいである。ウチの犬はもちろんのこと、今ではあまり見なくなったが、昔は捨てネコ、捨て犬を見つけてしまったら家に連れて帰り里親探しに尽力していた。里親が見つからない子はいつのまにかウチの家族の一員となり、私の父はどの子にも平等に愛情を注いでいた。その大きな愛情に私と姉も包まれていたのである。
姉はビッチに、私はクズに育ってしまったことを本当に申し訳なく思う。
小さい頃の私は身体が丈夫ではなく、しょっちゅう病気になったりケガをしたりしていたらしい。鼻が詰まり苦しそうにしていたら、父は自分の口で鼻水を吸い出してくれていたそうだ。小児ぜんそくで苦しんでいる私を背負って、それこそ病院を渡り歩き、対症療法ではなく、当時最先端の小児ぜんそく治療を得意とする病院も探し当てた。そこは県を二つまたぐ病院だったのだが、父は毎週車でそこに私を連れて行った。それが6年ほど続いたようだ。
昔の写真を見るからに、父は相当男前だったと思う。なんか「日活のスター俳優」みたいな精悍さでフレームに収まっている。今でいう
「ボクはキメ顔でそう言った」
みたいな感じだ。西部警察メンバーの中にひっそり紛れ込んでてもおかしくない風貌とでもいうのか、なかなかのシャレオツ具合である。
深い緑のメタリック調ボディに屋根が白いセドリックだかグロリアだかの車をバックに私と姉を小脇に抱えて、頭にサングラスをさした父の写真が私のお気に入りである。PCに取り込んでデジタル保存までしたくらいだ。
そんな大好きな父に、私はとんでもないことをしでかしてしまった。過去のエントリーでも触れている、
「イオンの配慮に欠ける障害者スペース利用更新手続きのお知らせハガキ事件」だ。
後期高齢者である父には、私の障害や病気を知られることなく安心して逝って欲しかったのだが、イオンの野郎が望んでもないし言われもしなかった
「この上なく配慮に欠ける個人情報を無視しまくった内容丸見えのお知らせハガキ」
を自宅に送りつけてきやがったため、私の障害や病気が父にバレてしまったのである。それから父は、パートナーを亡くしひとり身である私の身を案じ、クズである私の友人たちに何かと私の先々のことを頼みまくっている。
お父さん。頼む相手間違ってますよ。
と言いたい。
前回のエントリーでも触れた私の罪と罰のひとつである。うかつだったとは言え、あれだけ(今もだが)愛情を注いでもらった父に対して私はとんでもないことをやらかしてしまったのである。クズ時代も何かと心配をかけたのに、もうこれ以上の心配はかけられない。
父との穏やかな昼メシを済ませ、もらったふきと持て余していたタケノコのアク抜きをした。その間父は犬たちと庭で遊んでくれていた。なんか「めんどくせえアク抜きも悪くねえな」とか思えるくらい穏やかな気分になった。父は犬たちを「風呂に入れる」と言って風呂場に消えた。犬たちも嬉しそうだ。私ひとりでは結構大変なことを父は一人でやってのける。子育てのベテランだ。
洗面所にはクズたちのタオル類しかないため、犬と父のバスタオルを持っていくと、父は上半身裸でまず犬たちを洗っていた。犬たちはおとなしく父のされるがままになっている。
なんか小さくなったな。こんなだったったけ?
父の後ろ姿は少し寂しく、私をちょっと切なくさせた。
お父さんごめんなさい。心の中で父に謝る。
私がただただあの頃に戻りたいと願う時間と場所は、大きな父に軽々と抱きかかえられていた頃かも知れない。
大好きな父と一緒に過ごせる時間が増えたのは、少しだけクソイオンのおかげかも知れないな。
そろそろ帰る。父はそう言い犬たちのコウモリのような耳の付け根あたりを優しく愛撫している。犬たちは心地よさそうにトロンとした目になり、もううとうとしている。
どっか行くん?
あ?うん。パチンコ。
私は父に似たのだろう。
じゃあな。
うん。またね。
さて、晩メシの準備でもするか。放置していたケータイを見ると、友人のバカ主治医とその嫁、同僚Aからラインがきている。
バカ主治医。
- お前何してんの?
- 家か?
- るいちゃーーーん!
- 無視すんなよ
なんかめんどくさいのでとりあえず無視。
その嫁。
バカがアンタん家に行きたそうにしてるし、邪魔だから7時前くらいに行かせるわ。ウチ今日お子様メニューしかないから、アンタん家でなんか食わせてやって
同僚A。
- とーちゃんとかーちゃんが帰る前に会わせろってゆーから夜行くわー。できれば迎えにきてほしー。てかきてー
- 6時ごろねー
震えた。
今我が家には友人2人と、同僚のお父様お母様が来ている。手抜きの晩メシも「意識高い系メシ」として同僚Aの両親には好評だった。
A自身は知らないが、Aの両親はAが入職した頃に一回会っている。コミュ症をこじらせ、公務員を蹴ったAを心配して、わざわざ会いに来てAのことを頼まれているのだ。そのAに今度は私の父が私のことを頼んでいる。
なんか面白えな。
食後のデザートとコーヒー的な感じで、近所のハワイアンカフェに行くことになったので、私は後片付けなどを済ませてから行くことにして、まさに今クソブログを更新中だ。
なんとなく集まってなんとなく時間が過ぎるのを共有しているバカどもに私のことを頼むなんてな。
父の目は確かなのかも知れない。